➤月経関連の疾患
月経関連障害
1. 月経困難症(Dysmenorrhea):
月経時あるいは月経直前から強い下腹痛や腰痛,嘔気,頭痛,疲労,食欲不振,いらいらなどの諸症状が始まり,月経期間中に日常生活を営むことが困難な状態をいいます.
機能性(原発性)と器質性(続発性)に分類されます.
♦頻度 全世代で25%、思春期で~80%.
以下は特に月経痛を月経困難として記載します.
♦分類
①機能性月経困難
子宮内膜由来のプロスタグランジンによる,月経時の過度な子宮収縮が一因とされます.
特に若年女性においては月経への不安や緊張などの心理的要因も大きいとされています.ただし,若年者の月経困難は殆どが機能性と言われてきましたが,最近になって思春期世代の子宮内膜症の頻度が予想よりかなり多いことも報告されています.
②器質性月経困難
~子宮内膜症,子宮腺筋症,子宮筋腫などが原因となります.
♦治療
①鎮痛剤
②エストロゲン-プロゲスチン配合剤
♥LEP=Low dose estrogen-progestin
♥OC=Oral contraceptives
~いわゆる低用量ピル
子宮内膜を薄くすることで経血量を減少させるとともに,月経困難症の症状を改善させます.
*月経困難の緩和目的の製剤をLEP(保険診療),避妊を目的とした製剤をOC(自費診療)と区別しています(日本独自の慣習).
③黄体ホルモン製剤
♥ジエノゲスト
♥子宮内黄体ホルモン放出システム(=ミレーナ®)
子宮内膜を非常に薄くすることで,月経の頻度および経血量を減少させ,月経困難症の症状も改善させます.ただし月経が不順になるという有害事象(副作用)もあります.
④GnRHアナログ製剤
偽閉経状態を作り出すことにより,月経困難症の諸症状を改善させます.ただし有害事象の観点より使用期間に制限があります.
⑤手術
器質的な月経困難の場合,手術療法も適応となります.
2. 月経不順:
まずは月経の起こるメカニズムについて触れます.
月経周期は(1)卵胞期 (2)排卵期 (3)黄体期 (4)月経期に分かることができます.
(1) 卵胞期:月経期間中にエストロゲン分泌が減少すると,視床下部がこれを感知しゴナドドロピン放出ホルモン(GnRH)を分泌します.
GnRHaの刺激により脳下垂体から卵胞刺激ホルモン(FSH)が分泌され,その刺激で卵巣では卵胞が発育するとともに,エストロゲンが分泌されます.
このエストロゲンの作用によって,子宮内膜は増殖します.
(2) 排卵期:エストロゲン分泌が排卵直前にピークになると下垂体から黄体化ホルモン(LH)が大量に分泌されます(LHサージ).
このLHの作用により卵胞は成熟し,排卵を起こします.
(3) 黄体期:排卵後の卵胞は黄体となってプロゲステロンを分泌します.
プロゲステロンはエストロゲンとともに子宮内膜をさらに肥厚させるとともに柔らかくし,受精卵ができた場合の着床準備を進めます.
また基礎体温を上昇させるというはたらきもあります.
(4) 月経期:受精卵ができない,あるいは着床しなかった場合,黄体からのプロゲステロン分泌が減少します.
それにより基礎体温は低下,子宮内膜は子宮収縮とともに脱落し月経血として排出されます.
これが月経で,通常は排卵の約14日後に起こります.
月経不順はa.無月経 b.稀発月経 c.頻発する不正出血 d.頻発月経などに区別できます.
排卵がうまく起こらないことがabcdすべての原因になり得ます.
排卵が起こらない=周期的なプロゲステロンの分泌が起こらず,子宮内膜はエストロゲンの影響で肥厚します.
そのため月経の間隔が長くなる(無月経,稀発月経),周期性のない切れの悪い出血となる(頻発する不正出血,頻発月経)などの問題が起こります.
この出血を専門用語で破綻出血と呼びます.
排卵が起こらない原因としては,卵胞が発育しない(視床下部性,多のう胞性卵巣など),卵胞発育はあるが排卵が起こらない(黄体化未破裂黄体の形成)などがあります.
通常月経から排卵までの期間は15日前後とされていますが,個人差も大きく,また体調や精神的ストレスにより変化することもあります.
1週間前後の月経の遅れは,排卵の遅れによる場合が多いとの印象があります.
月経不順に悩む場合,まずは基礎体温の測定を勧めます.
3. 月経前症候群(PMS=premenstrual syndrome),
月経前不快気分障害(PMDD=premenstrual dysphoric disorder):
PMSとは月経の2週間ないし1週間位前から起こり,月経開始とともに消失する下記に代表される様々な身体的および精神的症状を示す症候群を指します.
精神症状がメインの場合,月経前気分障害(PMDD)と呼び,海外においてはPMSから独立した疾患群とされています.
具体的な症状は下腹痛,下腹部膨満感,嘔気,頭痛,浮腫(むくみ),めまい,動悸,精神的な症状として憂鬱,いらいら,無気力,集中力の低下,疲労感,涙もろさ,孤独感,パニック発作,不眠などがあります.
♦原因
明らかな原因は不明です.PMDDにおいては,罹患者のセロトニン作動性ニューロン(うつ状態を誘導)の黄体ホルモンに対する感受性が高いことが,有力な発症原因と報告されています.
♦頻度
中等度以上のPMS症状のある女性は,20-29歳で8.8%,30-39歳で5.3%,40-49歳で4.3%,全年齢で5.4%,PMDDに悩む女性は1.2%と報告されています.
なお高校生の11.9%がPMS症状のため欠席したことがあるとされるほか,女性アスリートにおいて有病率が高くなっています.
♦治療
・生活指導~規則正しい生活,食事指導(炭水化物を積極的に摂取し,人工甘味料は制限する)が基本.
・薬物治療
①対症療法~鎮痛剤,制吐薬,安定剤,利尿薬など.
②漢方薬
③LEP=Low dose estrogen-progestin
ホルモンバランスの安定化が症状の発症予防に関連するとされています.特に第4世代プロゲスチンのドロスピレノンを配合するヤーズ®の有効性が報告されています.
④抗うつ薬
PMDDに対し,抗うつ薬のひとつであるSSRI=Serotonin reuptake inhibitorの有効性が報告されています.うつに対して使用するより即効性があり,低用量で効果があるとされています.
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1. 更年期:記事作成中.